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ひねくれる余裕もなく

雑記

こんなに毎日暑くなる前のことだが、中学からの友人Mと久々に飲みに行った。
地元の店なんてさっぱりわからないから食べログで事前に調べて、3000円くらいで長くいられそうな居酒屋に行った。

彼とは高校以来だから数年ぶりの再会だったのだが、結果的には、店の人に怒られるんじゃないかってぐらいに大喧嘩をして別れた。
多分彼とはもうしばらく会うことはないだろうと思う。


中学の頃のぼくは、ノートにクラスの人々の勢力図を歴史シミュレーションっぽいテイストで書くことだけが楽しいような人間だった(今も大して変わらないが)。
Mという男は、そういうどうでもいいものを見て一緒に笑ってくれる数少ない友人だった。
同じ感性を共有しているのだとぼくは信じていた。


彼は県内の公立の進学校に進学した。まあまあ有名なところだった。
それに対してぼくが行った学校は、とにかくみんなクソ真面目な三流受験校だった。荒れた公立中のハードコア感が(嫌だけど)好きだった自分にとって、その校風はなんだか気持ち悪くて最後まで合わなかった。

高校時代に会ったときのMは、この進路選択の違いからかだいぶキャラが変わっていた。Mは自分の学校が大好きだった。
「部活にまず神経を集中して、終わったらそれなりに勉強してぼちぼち行きたい私大に滑り込めばいい」とニキビを潰しながら言った。文化祭の盛り上がりを熱心に話した。

学校にはなるべく行きたくないと思っていたぼくは、この人もずいぶん理解できないところに行ってしまったんだなあと思いながらも、少しうらやましかった。
同じようにひねた根性を持っている(と信じていた)人間が、ここまで直球で学校文化の中に身を投じて頑張っているのを見るのは単純に興味深かった。


最近再会したMは、中学時代のひねた姿も高校時代の滑稽なくらいわかりやすく(芋臭いくせに)キラキラした姿も、なにもかもすべてをなくしていた。

就職活動がうまくいかないとか、友達がみんなバカだとか、専門学校に行くんだとか、お前はえらいとか、ウェブ関連で起業したいとか、デザイナーになりたいとか、とにかく色々なことを言っていた。
ひとつひとつの発言は特にどうというものでもなかったが、話し方はいつも不安げで時折それと裏腹の宙に浮いた強気があり、言っていることの全体にはさっぱり整合性がなかった。

どんな事情があったのかはわからないが、彼はこの4年間を傷ついて過ごしたのだろうと思った。


中学のときぼくがつくったクラス内勢力図を教室のはしっこで一緒に見て笑っていたとき、彼はクラスの中という小さな社会とそこにあった政治を的確につかんでいた。
高校のときぼくが一切成長せず同じようなことを続けていたとき、彼はそういう力学を理解しながらも、ぼくとは違って、その中心にいた。


久々に話した彼はそのときとはさっぱり違っていて、自分が置かれている状況をヘラヘラと笑い飛ばす身かわし脚も、状況にすすんで参加する力も、どちらも奪われてしまったようだった。
そもそも、彼は自分が置かれている状況を全然理解していなかったし、理解しようとする姿勢さえもなくしているようにみえた。


ぼくは彼と話していて無性に腹が立った。
最終的に他人は他人なんだから、悪い気持ちを向けてまで付き合うくらいなら立ち去ろうと思っているし、そもそも他人に怒りを向けるようなときは先に自分が悲しくなって疲れてしまうんだけど、なぜだかこの日は今思うと残酷すぎる言葉を元気にたくさん浴びせる人間になっていた。

ふとケータイを見たら、もう終バスがなくなっていた。死ね!とかなんとか言って、テキトーに会計を済ませて店を出た。
大宮からとぼとぼ歩いて帰る道すがら、ぼくは中学生の頃のあの乾いた笑いと、その前提となる理解力をなくしてしまわずにいられてよかったなあと思った。